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多くの企業が業務で使用しているパソコンには、経営や業務に関わる重要な情報が保存されています。そのため、導入から廃棄に至るまでの全プロセスで、適切な管理が必要です。
こうしたパソコンに関連する管理業務をシステム化することをPCLCM(PCライフサイクル管理)と言います。本記事では、PCLCMの基礎知識や重要性、PCLCMを行うメリット・デメリットについて解説します。
PCLCM(PCライフサイクル管理)とは、Personal Computer Life Cycle Managementの頭文字を取った略称で、日本語ではPCライフサイクル管理と言います。パソコンのライフサイクルとは、製品の購入・調達から、導入設定、運用、廃棄といった一連のプロセスのことです。
それぞれのプロセスで適切な管理を行わないと、業務効率やコスト、セキュリティなどの面でさまざまな問題が発生しやすくなります。特に近年は、働き方改革や新型コロナウイルスの影響などでテレワークの普及が進み、業務で利用するパソコンの管理が複雑になっています。パソコンのライフサイクルに問題や課題を感じたら、PCLCMでシステム化し、より適切な管理を目指しましょう。
PCLCMを行う際は、まずPCLC(PCライフサイクル)について理解しておく必要があります。PCLCの区分は、大きく分けて調達・設定・運用・廃棄の4つです。ここではそれぞれのプロセスの管理ポイントについて説明します。
パソコンを選定し、購入またはリースなどで調達するプロセスです。業務用パソコンはスペックやサイズ、価格などが製品によって大きく異なります。そのため、自社の方針やニーズ・用途、予算などに合った製品を選択するのが一般的です。
数ある業務用パソコンの中からぴったり合った製品を選択するには、パソコンに関する専門的な知識はもちろん、ユーザーがどのようなパソコンを求めているのか正確に把握・判断する能力が求められます。
調達したばかりのパソコンはまっさらな状態なので、業務を行えるようにするためには、初期設定を行わなければなりません。この作業をキッティングと言い、パソコン本体の他、その周辺機器やソフトウェア、アンチウイルスソフトなどをセットアップし、業務に使える状態にします。
また業務用パソコンはセキュリティ対策として、特定のIDを持つ従業員しか使えないようにしなければなりません。こうしたユーザーIDの割り当てや管理などもキッティングに含まれます。キッティングが適切に行われていないと、業務を正常に行えない、セキュリティが低下するといったトラブルの原因になりかねないため、専門知識のある人材が対応するのが一般的です。
キッティングが完了すると、業務用パソコンが使えるようになりますが運用の開始後は、使い方が分からない、エラーが出た、不具合が発生したなど、さまざまな問題が出てくる可能性があります。
また、運用している間にシステム障害が発生した場合は、早急に対応しなければなりません。パソコンおよびサーバーの運用には専門的なスキルが必要になるため、多くの企業では情報システム部門や専用のITチームを設置しているか、あるいは外部企業にアウトソーシングしているケースも見受けられます。
パソコンは消耗品なので、定期的に新しいパソコンへ買い替え、古いパソコンを廃棄するのが一般的です。しかし、業務用パソコンには機密情報や個人情報など、外部に漏れてはいけない重要な情報が保存されています。そのままパソコンを廃棄すると、第三者によってデータを抜き取られ、悪用される危険性があります。
そのため、パソコンの廃棄する際は、内部データを消去するなどの対応が必要です。データを消去する方法には、ディスクドライブの破壊、ソフトの消去など複数のパターンがあるため、どの方法で消去するかマニュアル化しておくとよいでしょう。
業務にパソコンが使われるようになって久しいものの、PCLCMの必要性や重要性に注目が集まってきたのは比較的最近のことです。その背景には、2つの要素があります。
働き方改革や新型コロナウイルス感染症対策にともなうテレワークの普及があります。以前は業務に使用するパソコンはオフィスに固定されており、調達する機種も会社が選択するのが一般的でした。
しかし、テレワークでは自宅でパソコンを使用して業務を行うことになります。そのため、直接個々の把握ができないため管理業務が複雑になるかもしれません。また、オフィスに固定されている業務用パソコンとは異なり、現物を見て対応することができないのもネックです。
このように、テレワークの普及によってパソコンの管理が複雑になった今、PCLCMをきちんと行うことの重要性が高まっています。
以前は業務用パソコンといえば、デスクトップパソコンまたはノートパソコンが主流
でした。しかし、近年は出先でもシステムやデータにアクセスできるよう、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスを活用する企業が増えてきています。
これらモバイルデバイスは、オフィスのパソコンと連携しているものも多く、パソコンの買い替えなどを行ったときはセットで設定し直す必要があります。管理するデバイスが多様化したこともPCLCMに注目が集まる要因の一つです。
PCLCMを行うと、以下のようなメリットがあります。
テレワークやモバイルデバイスの普及により、会社が管理すべき端末の種類、数は大幅に増加しています。一般的に、管理工数は端末の数や種類に比例して増えていくため、管理業務の負担増に悩んでいる企業は少なくありません。PCLCMを行えば、管理業務のシステム化により、管理すべきデバイスを見える化することができます。どのデバイスがどこでどう利用されているのか、どのような状態なのかを、システム上で一元管理できるようになるため、管理工数の大幅な削減につながります。
業務用パソコンを調達する際、目先のコストを優先して機種を選んでしまうと、業務に見合わないハイスペックなパソコンを購入してしまったり、逆に特定の業務を行う際にスペック不足に悩まされたりするかもしれません。前者は導入時の費用負担が大きくなり、後者は労働生産性の低下につながるおそれがあります。
PCLCMによって自社に適したパソコンを選択できるようになれば、無駄のないパソコン調達が可能です。また、パソコンの耐用年数に合わせて買い替えを行えば、故障や不具合が起こるリスクも少なくなり、修理やメンテナンスのコストも節約できます。
PCLCMを実施すると、誰がどこでどのようにパソコンを使っているのか適宜チェックすることができます。パソコンの所在が明らかになっていれば、紛失や盗難などが起こった際も素早い対処が可能です。
また、パソコンの廃棄方法をマニュアル化し、適切な方法でデータを消去するルールを作っておけば、情報漏えいのリスクを軽減できます。
現代はパソコンの機能が多様化し、インストールできるソフトやアプリも増加しています。企業の担当者が従業員からの問い合わせやトラブル報告など、サポート対応に追われているケースもあるようです。
PCLCMを行えば、問い合わせやトラブル報告があった場合の対応もシステム化されるため、サポート対応の負担を軽減できます。また、PCLCMによってパソコンの運用面が改善されれば、エラーやトラブルそのものの発生率も低下します。
PCLCMには多くのメリットがあるものの、業務用パソコンを適切に管理するのは容易ではありません。まずは現時点のPCLCにおける問題や課題を洗い出すところからスタートし、調達・設定・運用・廃棄のプロセスごとに、ベストな管理方法を模索しなければなりません。
それぞれのプロセスでは少なからずパソコンに関する知識やスキルを求められるため、ITに詳しい人材がいない場合は、新たに採用するか、人材を育成することになります。PCLCMをシステム化した後も定期的に成果を確認し、問題は生じていないか、改善すべき点はないか、などの検討が必要です。このように、PCLCMの基盤を整えるにはかなりの時間と手間がかかるため、企業によっては負担が大きいかもしれません。
PCLCMを取り入れると、PCLCの全プロセスが管理できるため、適切な調達・設定・運用・廃棄が可能です。端末の一元管理によって管理工数を削減できる他、自社のニーズに適したパソコンの調達により、将来的なコスト削減も期待できます。
また、テレワークに使っている端末の状態も見える化され、オフィスにないパソコンももれなく管理できるようになることから、セキュリティの向上にもつながります。PCLCMの基盤作りは手間と時間がかかる一方、PCLCの最適化によって得られるメリットも大きいです。業務にパソコンを利用するのなら、PCLCMを積極的に実施しましょう。